縁あって、77年会という同世代の会合に定期的に出席させてもらっています。ここでは毎回、発起人の世界的シェフ松嶋啓介氏の伝手で多士済済のゲストトークが楽しめます。
先日は、高名なグロービス代表の堀義人氏が少人数の参加者に向けて熱いスピーチをしてくださり、非常に刺激になりました。話は経済から政治におよび、日本の今後について考える切っ掛けになりました。
さて、そのスピーチの本題も面白かったんですが、終わった後の歓談タイムで、とても印象的なシーンがありました。
○○のない事業はありえない
スピーチの中で、今後日本の10年、20年後の発展を見据えた活動が必要、というご意見がありました。それに引っ掛けて、知人が堀さんにこんな質問をしました。
「今、5年、10年のスパンで考えているプロジェクトを会社に提案していますが、なかなか通らないんです。」
彼はある大企業に務めている社員で、彼が言うプロジェクトは、会社の本業と全く関係ないものの、エコロジカルな視点があるユニークなものではありました。
「社会的に意味のある事業になると思うんですが、会社は年次の収益のことしか考えてくれない。5年、10年経ったら成功すると思うんですけど、そういう理念に資本を出すような土壌は日本にはないんでしょうかね」
ひととおりその事業についての説明をじっと聞いていた堀さんは、こう質問しました。
「その事業、粗利が出るの?」
「いえ、最初は利益は出ないんですけど、5年、10年したら…」
「じゃあだめだ。粗利が出ない事業はありえない。」
「だめですか…」
「粗利が出ないとしたら、それはビジネスモデルとして最初から破綻している」
それだけ言い残して堀さんは別の人の輪に行ってしまい、僕は苦笑する知人と顔を見合わせました。
ハーバード大学経営大学院MBA、グロービス経営大学院大学学長である堀さんのビジネス講義のエッセンスに短時間で触れられて、とってもお得な立ち話でした。
なぜ粗利が大事なのか?
粗利は経営をする上で最も重要な利益と言っても過言ではありません。なぜなら、全ての経費はこの粗利から支払われるからです。
粗利は、正式には「売上総利益」です。簡単に言うと売上から仕入(売上原価)を引いたもののことですね。会社のすべての経費はこの粗利から支払われるので、非常に重要な概念です。目先の売上利益がいくら大きくても、粗利が出てなかったら会社は潰れます。
僕のように、フリーエージェントだったり、小規模のビジネスをマネジメントしてたりする人は、1年、1ヶ月、あるいは1週間でどのくらいの利益がなければ事業が継続できなくなるか、というのをリアルに感じていると思います。
でも大きな組織で働いている時には、どうしてもこうしたコスト、プロフィット感覚が希薄になりがちなものですけど、「儲けが大事」というのは商いの基本です。
天使が会社を経営しても…
ドラッカーも著書『現代の経営』でこんな風に利益の重要性を語っています。
企業人の代わりに私欲のない天使が役員の椅子に座っても、利益については関心を持たざるをえない。いかなる事業においても、問題は経済活動に伴うリスクをカバーし、赤字を出さないために必要な利益を上げることだからである。
やはり「儲かる」という話でないと、理念だけいくら立派でもスポンサーは付いてくれません。「利益」は目的ではなく、事業を継続する「条件」なのです。大きな話を考えるときほど、こういう基本中の基本も忘れないようにしたいものです。